「血圧について」の復習と在宅で意識できたらなと思うことを書いてみます。
そもそも、在宅では数値化して評価できる項目は、病院と比較すると圧倒的に少ないです。限られたものの中でしっかりとアセスメント繋げることが大事です!
ただ、後述しますが、数値はあくまで「点」でしかないので、「信用」と「疑い」の両方を持ってみてもらえたらなと思います。
では、血圧とは、簡単に言うと、
血管壁を血液が押す力(圧力)
ですね。血圧って、簡単に測定でき、数値化もしやすく、そして比較しやすく、循環動態の評価には欠かせない重要なものですよね。
※脈拍も切り離せない関係ですが、今回は血圧に比重を置いてみます。
ただ、よく血圧の値だけ見て、いつもより「高いね」「低いね」で終わってしまう看護師もいます。でも看護師なら、そこに「何でかな?」を必ず足して考えて、様々な所見と合わせて全身状態を診ることに繋げて下さい。
急性的な脳や心臓、肺の血管障害は血圧の変動が起こりやすいです。異常値の時はできる限り緊急度の評価をしてください。不安だったら他のスタッフや医師の判断を仰ぐことが大切です。
なぜなら、心筋梗塞や脳梗塞のゴールデンタイムは6時間くらいが目安にされていることが多いです。脳梗塞の治療であるt -PAは、状況によりますが4.5時間以内などの制限もあり、早期対応できたか、できなかったかが予後やQOL、在宅生活に大きく影響してしまうことがあります。
血圧は、
心拍出量×末梢血管抵抗
で算出されます。この2つは聞いたことがあると思いますが、具体的な数値は検査でしかわかりません。なので、在宅にいる方はタイムリーに測定することはできません。
なので、色々な身体所見から、
・心拍出量が多くないかな?少ないのかな?
・末梢血管抵抗が増加してる?低下してる?
という疑いをかけることが重要です。
明らかな所見があれば断定に近いことは言えますし、記録にも残せます。でも看護師は診断する立場ではないですし、する必要もありません。ただ診断できるくらいのアセスメントができてきた方が医師とのやりとりもしやすいですし、何より利用者のためになりますよね。
訪問時の全身状態把握の流れとして、
①状態観察
②いつもと違う所見がある(例えば、血圧が高い?or 低い?)
③アセスメント(体で何が起こってるかな?)
④緊急度評価
・緊急時が低い→経過観察or予防的介入
・緊急度が高い→早期対応
みたいな流れかと思います。
血圧の異常として緊急性が高いのは「高すぎる」「低すぎる、もしくは測れない」がありますが、より危険なのは後者です。理由は生命維持に直結するからです。
イメージトレーニングです。
「いつもは状態安定している方」に訪問しました。
1.低すぎる、もしくは測れない
玄関でインターホンを鳴らす、部屋に行き、挨拶し、一言二言交わす、というルーティンで、「あれ、いつもと何か違う?」「ん?」と感じることもあると思います。
こういう当たり前の行動の中で、無意識に「意識」「呼吸」「循環」を感じ取っていると思います。
在宅では上肢血圧を聴診で測定していることがほとんどと思いますが、何かおかしいなと思うときは、話しかけながら、動脈触知でひとまず血圧評価することも重要と思います。
・反応がなく、頸動脈触知不可、無呼吸、もしくは喘ぎなどの死戦期呼吸の場合はCPR適応になります。もちろんDNARなどの方針の方は蘇生処置はしません。
・返答や反応(発語)があれば、血圧評価に移りますが、レベルダウンがあれば、ひとまず橈骨動脈と頸動脈の触知で緊急性を判断します。大丈夫そうであれば、通常のバイタル測定やフィジカルアセスメントを行います。
※血圧計と聴診器をバックから出し、腕に巻いて測定…CPR適応の場合、この時間はほんとに無駄です。
・測定した結果、ショックバイタルである場合、下肢挙上などの今できる対応をしながら随伴症状の確認、在宅医コールや救急搬送の準備になります。
・もちろん全部異常なケースではなく、「夜更かしして寝ていた」「夜中に起きてしまって眠剤を追加してしまい、眠気が強いだけ」など緊急性がない場合も多いです。
血圧を見ていく中で「ショック」という言葉が出てきます。ショックの原因として、
①循環血液量減少性
②心原性
③血液分布異常性
④心外閉塞・梗塞性
がありますが、訪問看護をしている中で、自分が経験したものは「心原性」が多かったです。どんな感じか、2ケースほど。
case1
既往に心筋梗塞(CABG後)、大動脈弁狭窄症(未治療)があり、薬剤で心不全コントロールしている方。週2回入浴介助で訪問していました。
ある日訪問です。玄関で挨拶すると、部屋からいつもより活気のない返事、訪室すると布団にくるまっており、声かけると返答はあるものの布団から起き上がらず。掛け布団を外してみると、顔面蒼白、冷や汗、体も冷たく、頻脈、血圧低下(70台)でした。プレショック様の状態で、下肢挙上しながら在宅医コール、救急搬送、入院となりました。
この時は布団をめくった瞬間に「あ、これはダメなやつだ」と感じたケースでした。
case2
既往で心筋梗塞に対しPCI(ステント留置)実施、その後ステント内再狭窄で再度PCIした方。RCAの梗塞後で徐脈が時折みられている。認知症が強い方で、ADLは室内自立しているが、いつもウトウト(昼夜逆転)されており、日中の訪問時は反応が少なめ。服薬拒否が強く、最小限の服薬にしているが飲まないこともあり。
訪問時のバイタルサインは著変なし、会話も可能。訪問時は日中の刺激を与えることも目的とした椅子でのストレッチや運動実施しており、その日も椅子に移る。するとすぐ、顔色不良に。声かけしていると意識消失、呼吸(+)。すぐに床に臥床させ、血圧確認しました。頸動脈(+)、橈骨動脈(ー)、徐脈、→下肢挙上し、1〜2分で意識回復、数分で循環動態も回復。
本人の、「もう病院は行かない」という意思があり、精査などはしませんが、このケースは徐脈になっていることから狭心症発作か迷走神経反射が疑われるケースでした。すぐに血圧上昇してきたため常備のミオコールスプレーは使用しませんでしたが、胸部症状などの随伴症状が確認できない中、血圧低下や徐脈のみでニトロ舌下錠やミオコールスプレーなどの使用は躊躇するなぁと感じたケースでした。
※自分は循環器で働いていた経験から、「心筋梗塞」「狭心症」が既往にあると、冠動脈のどの部位かが気になって確認します。なぜかというと、虚血部位により症状の出方に違いが出る可能性があります。気になる方が調べてみてください。
心原性に続き次に多いのが、「循環血液量減少性」でした。
・在宅生活を送っている高齢者の天敵である「熱中症」
真夏の暑い時期で、リスクの高い方には毎日看護師やヘルパーが予防介入するようにしています。
多少の脱水傾向なら経口補水液や、訪問診療が入っていれば補液や電解質補正ができますが、重度の脱水、熱中症は救急搬送です。ただ、ほぼ発熱も併発しているため、昨今のコロナ禍は本当に全国でも大変だったと思いますし、亡くなった方も多いです。
自分のステーションが訪問している方で、熱中症で亡くなった方は幸いにもいませんでしたが、高齢者は体内水分量が少ないのでリスクは高いです。訪問したら「飲水」「冷房」は鉄則でした。エアコン操作も間違ってしまう方もいるので真夏に暖房が付いていたりすることも珍しくありませんし、それに気が付かない方も多いです。
・出血
在宅でショック状態まで移行してしまう可能性がある出血は、自分のステーションでは消化管出血が多かったかなと思います。
出血の場合は在宅での対応は難しいです、アクティブの場合は出血源に対するアプローチが必要なので、病院搬送が多いかなと思います。外傷による出血ならば止血処置などは応急的にできるスキルは持っておいた方が良いかと思います。
※ショックの分類は他にもありますが、自分の訪問内ではみられなかったです。肺炎や尿路感染などの感染はありますが、在宅対応が難しい場合は病院搬送が多いので、ショックへ移行する段階まで重症化することはなかったです。
☝️血圧低下時は、ほとんどと言っていいほど「心拍出量」が低下しています。そして長く続くと血圧を上げようと「末梢血管抵抗」は増加します。よく末梢がしまると表現されたりします。
原因は様々です。随伴症状を確認するとともに、「何が原因?」かを推測することで、その後の対応が変わってくるかと思います。
※敗血症性ショックの初期にみられるウォームショックなどは血管拡張に伴う血圧低下が生じるので違う病態を示しますが、その状態が長く続くと末梢はしまってきます。
2.いつもより少し低いかな、高いかな
この可能性は多々あるので、その利用者によって要因分析が必要です。
血圧変動のメカニズムを理解しておいた上で(今回は省略します)、普段との違いがないか、例えば飲水量が少ない、食事の時間がいつもと違ってた、睡眠不足、さっきまで散歩してた、トイレに行ったばかり…などの状況把握が肝心です。
日常生活内で血圧は上昇下降繰り返しています。なので訪問時の血圧値は「点」でしかありません。
評価ポイントは、
・一過性か、持続性か(ベースラインで評価)
・日常生活自体(生活行動)は変わっていないのに変動してきている。
訪問間隔は利用者によって違いますが、自覚症状がなく、多少の変化ならば、血圧の評価は1回の測定値のみでは基本行いません。正直、どのくらい数値が上がれば危険、このくらいなら大丈夫、という具体的数値はないです。訪問中に再検してみたり、問診、その他の所見から総合的に判断することが重要です。
持続的に変動している場合は、何か身体で起こっている可能性があります。わかりづらいかもしれません、でも小さな変化がすごく重要な初期症状かもしれません。軽視せず探してみてください。これは医者よりも訪問頻度の高い看護師の方が見つけられると思います。
血圧高いから降圧薬の処方…駄目ではないですが、降圧薬は対処療法です。原因の解決ではありません。全てに明らかな原因があるとは限りませんが、高齢者に循環作動薬を使用するということは、結構リスクが高いです。
☝️在宅生活での自分が大事にしているポイントは、日常生活動作に対する活動耐性です。トイレや入浴、階段などによるバイタルサインや身体変化なども定期的に見た方が良いと思います。活動負荷に対する身体反応のアセスメントも在宅生活を継続する上で大切です。
3.血圧が跳ね上がっている
通常安定した血圧で過ごしている方は、「何か」起こって上昇していることがほとんどだと思います。
※自律神経失調症やパーキンソン病などで無刺激に上昇する方などもいます。
基本的に血圧が急激に上がる時は、原因があると思います。それが脳血管障害や心筋梗塞などの初期症状の場合もあるため、様子見の判断は結構怖いです。随伴症状がある時は早期対応を心掛けた方が無難です。血管障害などの場合は時間が勝負のところがあるので注意です。
血圧上昇に影響が出る因子の一つとして、「疼痛」「苦痛」があります。
疼痛/苦痛
自分で訴えれる方は、すぐに対処できるため良いですが、寝たきりで反応が乏しい方(意識レベルが低い方)や重度の認知症がある方などは、言葉での表現が難しい場合があります。実は骨折していた、誤嚥し苦しくなっていたなど、相当の辛い状況でも表情や言動に出せない場合もあります。
血圧が、そのような方の異常を伝えるサインかもしれません。同様のことを何度も記述していますが、その他の所見から総合的に判断し対処が必要です。
もう一つ高齢者の方々でよくあるのが、「我慢」です。本当に我慢強い方や、弱みを見せたくない方、医者や看護師に素を出さない方がいます。
言動とバイタルサインが不一致の場合、その方を尊重しながら、しっかりとした問診やコミュニケーションが必要です。そういうことにも気づけるよう自分も心掛けています。
+α(脈圧と平均血圧)
収縮期血圧と拡張期血圧の差は脈圧といい、動脈硬化の指標の1つになっています。脈圧が大きいほど動脈硬化が進行している可能性が高く、心筋梗塞や脳卒中リスクが高くなります。
脈圧を用いて「拡張期血圧+脈圧÷3」で平均血圧を算定することができます。
収縮期血圧と拡張期血圧はよく記録にも記載されますが、少し平均血圧も意識できたらと思います。平均血圧は各臓器に循環する血圧を示しています。細かくは記載しませんが、知識として知っておくと、より深く循環動体の評価ができるようになると思います。
今回は血圧寄りで書いてみましたが、実際は単独の変化だけではなく、その他のバイタルサインや所見の変化もあると思います。総合的に判断することが大事です。